学園煉獄

クラス軸を自分軸に書き直すための万里の紀行文

ようやくポケモンSVの感想が書けるな!(いま鬱が少しマシになっています)

『スカーレット/バイオレット』の一番の変化と言えばオープンワールド設計だろう。

野山を駆けめぐりポケモンを探す。

試験的な『ピカブイ』から挑戦的だった『アルセウス』を経て、

SV』ではようやく僕らの夢が実現した。

 

フィールドに生息する多種多様なポケモンたち。

「道一つずれただけでポケモンが違う」

かつてNPCが何気なく言った一言が現実になる。

 

この道を行けば、どんなポケモンに出会えるのだろう?

探索がワクワクに満ちているあまり、知らぬ間にレベルが上がって、

ジムリーダーが楽勝になってしまった人も多いはず。

 

忌まわしきあのカタカナ四文字によってキャラメイクが劣化し、

新しい街に向かう楽しみは激減してしまったが、

そのぶん今作のフィールド探索はとにかく楽しかった。

スカートが履けないのも、伝説のポケモンにライドしての探索が前提と考えれば、

まあ百歩、いや五百歩くらい譲るとすれば、仕方がないのかもしれない。

 

しかしそういった見かけ上の変化以上に良かったのが、今作のシナリオ!!

 

学校に転校したのをきっかけに始まる3本のストーリーがどれもよい。

どの話をどの順番で進めても良いんだけど、先が見たいから満遍なく進められる。

最初は正直やっつけシナリオが混じってると思ってたけど、いやいや、とんでもない!

どれもいい出来。まさかポケモンで涙ぐむとは思わなかった。

 

全体としては学校や青春がコンセプトだけど、

各シナリオでそれぞれやんわりと小テーマが設定されていた点も深みを出しているポイント。

 

一つ目のシナリオは王道・チャンピオンロード

バッヂを集めてリーグに挑むお馴染みのルートだ。

 

隣人で生徒会長のネモがこのシナリオでメインになるキャラクターで、

異例の速さでチャンピオンランクに昇格したネモは、

主人公の強さに目をつけると、勧誘して半ば強引にジム巡りをさせる。

馴染みのルートだから一番モチベーションが高い。

 

今作のチャンピオンは一人じゃなくて階級みたいな扱いになっているのだけど、ここがミソ。

ネモの押しの強さとバトルへの執着は正直ちょっと怖い領域だけど、

終盤になるとネモがいきなりしんみりとして、心の内をポロッと漏らすイベントがある。

 

曰く、チャンピオンランクへの到達が早すぎたあまり、対等の友達ができず悩んでいたという。

ネ、ネモ……そうか……きみはそれで、あんなに必死に勧誘を…………!

 

チャンピオンになった後のバトルで

「ライバルになってくれてありがとう」の台詞が出た時には、そりゃもう、涙がブボボモワッ。

もうこれがエンディングでいいんじゃないかな……と思った。

今作は一つのルートで一人のキャラクターと向き合っていくので、

どんどん友人への好感度が上がっていくのがいいんですよね。

 

 

お次はスターダスト・ストリート。お馴染み悪の組織を壊滅させるルート。

今作の敵であるスター団は、授業をサボってバリケードでフィールドを占拠する問題児の集まり。

主人公は謎の人物カシオペアにスカウトされ、不登校から復帰したド陰キャのボタンと共に、

スター団のアジトにカチ込んで投降させていく。

 

ボスを倒すたびに、スター団の回想シーンが入って、活動の思い出が語られていくが、

徐々にある疑問が芽生える。

 

「こいつら、結構いい奴なんじゃないか……?」

 

これは、絶対裏に何かある。スター団はなぜ、授業をサボり、迷惑行為に及んでいるのか。

どのように結成され、過去に何があったのか。その真相を、突き止めたくなってくるのだ。

 

このルートで共に行動するボタンは、

正直ヒロインとしては全く可愛くない(前作にいた姉はかわいいのに……)のだが、

終盤で満を持してバトルする時の決め台詞を見て俺は息をのんだんだ。

 

「星々のように テラスタル! なりたい自分に 変身しろ!」

(テラスタルは、ポケモンが光り輝いてタイプが変わり技が強くなる今作の独自システム)

 

台詞を見て思わず手が止まる。ああ、そうだよな。

陰キャの本音は、これだよな。

これまで何度も、そう思ってきて、その度に毎回挫折してきたんだよな。

だから引きこもって……わかるよボタン。

そのボタンが今、友達のために、こうして戦っている……

 

ボ、ボタン…………!!!

 

ここでもまた、ブボボモワッ。

スター団の真実を知った陰キャプレイヤー、この時気分はスター団だったと思う。

 

ネモの悩みが強さ、ルートのコンセプトが才能なら、

ボタンの悩みは弱さで、コンセプトはいじめ問題。

学校や青春という言葉に拒否反応が出る僕のような奴の存在を取りこぼさず、無視することなく、

避けて通れない道として全力で掬いあげてくれた。

 

多様性と言えばそれまでだし、あの忌まわしきカタカナ四文字もチラつくけれど、

流石は世界のポケモンだ。多様性に向き合う覚悟が違う。実によかった。ありがとうポケモン

 

 

そして三つめはレジェンドルート。

博士の息子のペパー先輩と、成り行きで伝説のスパイスを探すシナリオだ。

正直意味不明なルートだが、過去作の秘伝マシンに相当し、クリアすると移動手段が増える。

今作は根性があれば殆どの場所に行けはするが、各段に移動効率がアップするのだ。

 

ペパー先輩がまた良キャラで、最初はいきなり喧嘩を売られるけど、

どんどんいい奴としてのポテンシャルが滲み出てくる。好感度はうなぎ上り。

最初は移動効率のアップを狙って渋々スパイス集めに付き合う人が大半だろうけど、

ペパーのシナリオに手を付けたなら、もう協力せずにはいられなくなる仕掛けがある。

 

このルートのテーマは優しさ。そしてポケモンとの絆。

今作は青春や友情全開で来るのかと思いきや、

しっかり「パートナーとしてのポケモン」をシナリオに絡めてくるとはニクい演出だね!

 

 

そして各ルートのサブキャラたちの好感度が上がりきったところで、

最終シナリオ「ザ・ホームウェイ」が解放される。いよいよといった趣がある。

今作の伝説のポケモンであるコライドン/ミライドンの秘密がついに明かされ、

レジェンドでは未解決だったペパー&博士の親子の確執に終止符が。

 

いじめに続いて、ネグレクトもやるのか。覚悟が違うぜ、ポケモン……!

 

このシナリオも涙なしではみられない。

そして最終戦がまさかの! ポケモン初となるイベントボスなのだ!!

MOTHERシリーズとか、セフィロスとの一騎打ちみたいな、演出を進めて決着に至るやつ)

 

モンスターボールの封印」とかいう前代未聞の禁じ手を前に、過去最大にピンチな主人公たち。

トラウマを乗り越えて立ちはだかる相棒。

 

強いやつも強いばかりじゃない……

弱虫が立ち上がる雄姿を見た……

ペパーと相棒の絆を見てきた……

これまでの全ての集大成として、コライドン/ミライドンが、満を持しての、

 

バトルモォォォォォードッ!

 

ああ! ここで! この伏線回収が来ます!?

近年のポケモンにある、バトル中の仲良し演出そこで使います!?

そうだよ、戦いはしなかったけど、ずっと一緒に冒険してきたもんな。

がんばれコライドン/ミライドン……おまえが伝説だ!!

 

演出が……アツすぎるぜ……!!

 

そしてペパーですよ。ペパー。彼に関しては、決してハッピーエンドじゃないんだけど。

切ないんだけど。でも彼の周りには、最初には居なかった友達がいて。

友達に触発されて、博士とのわだかまりも解いて、一歩踏み出していく。

 

ペ、ペパー…………! お前マジでいい奴だったよ……!!

 

 

今作は、宝探しと称した青春と友情が表のテーマ、

多様性が裏のテーマと言われているけれど、

もう一つの裏のテーマは「再起」なんじゃないかと思う。

 

ポケモン赤緑の世代は僕のようにもう若くないし、ポケモンは今や普通に大人も遊ぶタイトルだ。

今作はジムリーダーや四天王やアカデミーの先生たちのような魅力的な大人たちがいて、

夢破れたり、才能が及ばなかったりしたキャラクターもいる。

普通が一番を持論とする実力者もいる。

 

多種多様な在り方をそれでいいんだと肯定する中で、

それでも何か、胸に一物抱えて生きる大人たちの背中を押すサブエピソードがある。

 

本作では珍しく美形枠のミモザ先生とグルーシャがその役を担い、

主人公に触発されて、努力し再起する姿が描かれる。

キハダ先生は「大人も日々学んでいるんだよ」と晴れやかに言う。

青春は子どもたちだけの物語じゃない。大人が変わってもいいんだ……!

 

ネモ、ボタン、ペパー、ミモザ、グルーシャ、スター団。

主人公の影響で変わっていく彼らを見て、何を感じたか。

出会った人たちの誰に共感したか。誰が好きだったか。

その感想は、プレイヤーにゆだねられている。

 

それが本作のテーマ「宝探し」の神髄ではなかろうか。

四天王戦の前後に、旅を振り返る質疑応答が用意されているのも、単なる演出ではないだろう。

プレイヤーはパルデア地方の冒険から何を持ち帰ったか。単なる美しい思い出だって構わない。

 

握りしめたものを確かめて初めて、『スカーレット/バイオレット』のシナリオは本当に完成する!